言語検証の必要性


翻訳すると文化的背景が違うため質問意図が伝わらないことがある


英語から日本語へ翻訳する場合、良い翻訳文とは、英語で書かれた文章と同じ意味が日本語で書かれていると定義できます。 しかし、治験で使われる患者向け質問票(以下“質問票”と呼びます)の翻訳はそれだけでは不十分です。 なぜなら英語で書かれた質問と同じ意味の日本語の質問は、文化的背景によって質問意図が変わってしまうことがあるからです。

例えば、オリジナルでは「ゴルフをしますか?」と書かれているとします。 オリジナルが書かれた国、あるいは地域では、健康のためにゴルフをするのが一般的で、質問の意図は患者のQOL(生活の質)を図る典型的な質問と書かれたものだとします。 しかし、文化的背景の違う日本で「ゴルフをしますか?」と聞かれたら、それはQOLを図るものではなく、 「趣味は何ですか?」「経済的にゴルフをする余裕がありますか?」などの意味を持ってしまい、オリジナルの質問意図が全く反映されないものとなってしまうのです。

患者中心の医療と患者報告アウトカム重視の流れ


治験では質問票で集めた患者の答えが検証可能なデータとして分析され、薬として承認するか否かに直接かかわってきます。 質問票で集めた患者の答えは専門用語でPatient Reported Outcome (“PRO”、”患者報告アウトカム”)と呼ばれています。 つまり患者による直接評価ということです。従来は医者による評価と検査結果などの生理学的評価が、治験の結果として重視されてきました。 しかし、最近はPatient Centered Research (患者中心の研究)、Patient-Centered Medicine(患者中心の医療)という考え方が、大きな流れ(*)になってきています。 そのため、患者による評価である患者報告アウトカム、つまり、質問票に対する答えが、治験の成否を測るものとして重要視されてきているのです。

その質問票に書かれた質問が日本語に訳された時、違う意図を感じる質問になってしまっては、 質問を作成した製薬会社のデータ収集の目的が果たせなくなってしまいます。 同時にデータとしての客観性、信用度が下り、アメリカの患者のデータと日本の患者のデータを比較したりするにも調整が必要になってしまいます。 そのため、オリジナル言語がつかわれている国以外、例えば日本で治験を行う場合、 その治験で使われる患者向け質問票は認知デブリーフィングを含む言語検証(Linguistic Validation)を経て翻訳されたものを使うことが、 米国のFDA米国食品医薬局EMEA欧州医薬品審査庁ISPOR国際医薬経済アウトカム研究学会が医薬品業界に積極的に推奨しているのです。

参考*「Patient-Centeredの促進に伴うPatient Reported Outcomeの新薬開発への適用に関する研究
医薬産業政策研究所 首席研究員 小林和道 (医薬産業政策研究所 リサーチペーパー・シリーズ 2015年3月)」

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